酵素補充療法

 ライソゾーム病、免疫不全症(アデノシンデアミナーゼ欠損症)、フェニルケトン尿症では、体内で欠損あるいは顕著に活性が低下している酵素を体外から注射で投与する治療方法が用いられています。これらの治療方法を総称して酵素補充療法と呼びます。

 ライソゾーム病の多くは酵素補充療法で治療効果があるといわれています。最初に開発されたのはゴーシェ病の酵素補充療法です。ゴーシェ病のI型には特に効果がありますが、重症のII 型あるいはIII型の効果については神経症状への効果がほとんどないとされています。

 ポンぺ病では、重症の患者さんは乳児期早期から筋力低下、心臓の拡大が出現します。治療が遅れると酵素補充療法の効果も少なくなります。そこで、新生児スクリーニングが特に重要とされています。ムコ多糖症では骨の異常と中枢神経系の異常が特徴的です(IV型では中枢神経系の異常はないとされています)。

 わが国ではゴーシェ病、ポンぺ病、ファブリー病、ムコ多糖症(I型、II型、IV型、VI型)、酸性リパーゼ欠損症の治療薬が使用できます。これらの疾患は新生児スクリーニングの候補疾患です。

 最近、アルギナーゼ欠損症(尿素サイクル異常症の一つ)の酵素補充療法の臨床試験が米国と欧州で実施されています。今後も多くの疾患で酵素補充療法が開発される予定です。

分子シャペロン療法と基質抑制療法

 多くのライソソーム病では酵素の欠損によって、その基質あるいは関連物質がライソゾーム内に蓄積します。分子シャペロン療法は、患者さんの体内で作られている(わずかに活性を残している)酵素の成熟を助け、ライソゾームへの移送を効率よく進めるための薬です。変異した酵素たんぱくに結合して、安定性を増すことで効果を発揮します。

 基質抑制療法は酵素欠損患者のライソゾーム内で蓄積する基質の産生を抑制し、治療効果を達成しようとする薬剤を用いる治療です。わが国ではゴーシェ病とニーマンピック病C型の治療薬が市販されています。

遺伝子治療

 欠損している酵素などの遺伝子を体内へ投与し、細胞内で働くようにする治療方法です。

 原発性免疫不全症、副腎白質変性症では患者さんの細胞を体外に取り出し、細胞に遺伝子を導入して、正常化した細胞を体内に戻す治療が行われます(体外遺伝子治療)。

 遺伝子を体外から体内へ直接投与する方法も遺伝病の治療では効果を上げています。脊髄性筋萎縮症(SMA)では米国で遺伝子治療薬が開発されています。わが国でも臨床試験がすでに終了しています。近いうちに市販されるものと期待されています。

 現在様々な疾患で遺伝子治療が研究されています。新しい有効な治療方法の開発は新生児スクリーニングの対象疾患の増加につながる可能性があり、大いに期待されています。