- - アミノ酸代謝異常症
- - 有機酸血症と脂肪酸代謝異常症
- - ライソゾーム病
- - 原発性免疫不全症候群
- - 副腎白質変性症
アミノ酸代謝異常症
現行のタンデムマススクリーニングではアミノ酸代謝異常症として、フェニルケトン尿症、メープルシロップ尿症、ホモシスチン尿症(子メチオニン血症)、シトルリン血症、アルギヒトシノコハク酸尿症が診断されています。
フェニルケトン尿症に対してはフェニルアラニンを制限する食事治療、BH4反応型患者に対するビオプテリンの投与が行われています。これらの治療方法だけでは長期に及び予後を改善するには、重症患者には十分ではないと考えられています。成人期にも摂取が容易な食品の使用、大型中性アミノ酸製剤の投与が北米、欧州では実施されていますが、残念なことにわが国では普及していません。
米国ではフェニルアラニンを分解する酵素(フェニルアラニンアンモニアリアーゼ)を用いる酵素補充療法の臨床試験が実施されています。わが国でも近く臨床試験が開始される予定になっています。
フェニルケトン尿症は食事療法を行えば良好な予後が得られる疾患と考えられてきましたが、厳しい食事治療の継続が困難なことが多く、長期の成人期の予後の改善には新しい治療方法の応用が必要です。
ホモシスチン尿症に対しては、メチオニン制限食と薬物療法としてのベタインの投与が行われています。MATI/III欠損症で生じる高メチオニン血症に対してはメチオニン制限食が行われています。
メープルシロップ尿症では分岐鎖アミノ酸(バリン、ロイシン、イソロイシン)を制限する食事療法が行われます。しかし重症患者には治療効果が十分ではない場合が多く、このような例には肝臓移植が行われています。米国では重症患者に対して肝臓移植が治療の第一選択とされています。
シトルリン血症I型とアルギニノコハク酸尿症は尿素サイクル異常症に含まれます。尿素の生成が不十分となり高アンモニア血症が生じます。アンモニアは脳に毒性が強いため、治療がうまくいかない場合、重度の知的障害などが生じます。治療では蛋白接種制限とアミノ酸であるアルギン製剤の使用、アンモニア除去製剤であるブフェニールが使用されています。これらの治療の効果が十分でない場合、肝臓移植も選択されることもあります。
このほか、尿素サイクル異常症の一つであるアルギニン血症は酵素補充療法が開発中です。今は新生児スクリーニングの検査項目に挙げられていませんがオルニチントランスカルバミラーゼ欠損症とカルバミルリン酸合成酵素欠損症は尿素サイクル異常症の代表的疾患であり、重症な疾患です。スクリーニング方法の開発が熱心に研究されています。
アルギニン血症、高チロシン血症、シトリン欠損症は現行のスクリーニングでは見逃す可能性のある疾患とされています。
有機酸血症と脂肪酸代謝異常症
有機酸血症は酵素欠損によって体内に有機酸と呼ばれる物質が蓄積する一群の疾患です。
これらの疾患では、蓄積物質をタンデムマス法で検出することによるスクリーニング検査が行われています。現行のマススクリーニングで診断されている有機酸血症としてはプロピオン酸血症、メチルマロン酸血症、グルタル酸血症1型、イソ吉草酸血症、 ヒドロキシメチルグルタル酸血症、複合カルボキシラーゼ欠損症、メチルクロトニルグリシン尿症、βケトチオラーゼ欠損症があります。プロピオン酸血症、メチルマロン酸血症、グルタル酸血症1型は特に重要な疾患です。重症のメチルマロン酸血症では食事治療と薬物治療が行われても予後の良くない患者さんがいます。このような患者さんには肝臓移植が選択されることもあります。
脂肪酸代謝異常症は細胞内の脂肪酸からのエネルギー産生に異常がある疾患群です。この疾患群にはCPT-1欠損症、CPT-2欠損症、三頭酵素欠損症、VLCAD欠損症、MCAD欠損症、CACT欠損症、全身性カルニチン欠乏症、グルタル酸血症2型が新生児スクリーニング対象疾患になっています。このうちβケトチオラーゼ欠損症は見逃しやすい疾患とされています。一部の疾患は治療が難しく、新しい治療方法の開発が求められています。
ライソゾーム病
ライソゾーム病とは、細胞内に存在するライソゾームと呼ばれる小器官の中に存在している酵素あるいは転送タンパク質の異常によって発症する一群の遺伝性疾患をさします。 欠損している酵素を注射で血管内に投与すると、細胞内の酵素活性が回復することが知られています。この治療方法は酵素補充療法と呼ばれています。
酵素補充療法以外にも基質抑制治療薬、分子シャペロン薬も一部の疾患では有効です。 また造血幹細胞移植が有効な疾患もあります。
ポンぺ病、ゴーシェ病、ファブリー病、ムコ多糖症(I型、II型、IV型、VI型)、酸性リパーゼ欠損症は、わが国でも酵素補充療法薬が市販されています。これらの疾患は新生児期のスクリーニングの対象疾患候補とされています。
わが国のライソゾーム病の新生児スクリーニングは熊本県で初めて行われました。 現在、熊本県と福岡県では、すでにファブリー病、ゴーシェ病、ポンぺ病のスクリーニングが行われています。愛知県ではポンぺ病のスクリーニングが行われています。関東の一部では産科施設によってはファブリー病とポンぺ病のスクリーニングが行われています。
現在、熊本県ではムコ多糖症I型とII 型の新生児スクリーニングのパイロットスタディが行われています。
原発性免疫不全症候群
先天的に細菌やウイルスなどの病原に対する免疫力に低下がある疾患です。
障害される細胞の種類はT細胞、B細胞、好中球などの多くの種類があります。免疫機能の障害に至る遺伝子変異も多彩です。これまで300種類以上の疾患が知られています。感染に対する抵抗力が低下した患者さんでは、生命にかかわる重篤な感染症に罹患します。疾患によっては生まれてすぐから免疫力が低下します。それで乳児期早期に重症の感染症に罹患あるいはワクチンの投与で重篤な症状を呈することもあります。
治療としては、重症複合型免疫不全症では早期に造血幹細胞移植が行われます。一部の疾患では遺伝子治療が開発されています。治療によって予後が改善することが明らかになっている疾患は、新生児スクリーニングの対象疾患として推奨されています。米国、欧州ではすでに多くの地域で新生児スクリーニングが実施されています。
わが国では愛知県で新生児スクリーニングが行われています。
副腎白質変性症
副腎白質変性症は、進行する脳障害と副腎機能の障害を特徴とする疾患で遺伝形式はX連鎖性です。原則的には男性に発症します(一部は女性も発症)。家系内で遺伝することが多く、その場合の多くは母親が保因者です。
病型としては小児大脳型、思春期大脳型、副腎脊髄神経症、成人大脳型、小脳・脳幹型、アジソン病などがあり、女性で発症する病型もあります。
このうち小児大脳型が最も重症で、男児に発症します。典型的な例では5歳から10歳で発症します。最初は学校の成績の低下、視力障害、聴覚障害で気が付かれることが多く、痙性歩行の出現など、運動機能も障害されます。発症後は急速に進行し、寝たきりになるまで進行していくことが多い重篤な病気です。
原因はABCD1遺伝子の異常です。遺伝子の異常が判明しても、上記の病型の中のどの病型になるかはよくわかっていません。
早期に発見し、慎重に経過を追いながら、発症後すぐに造血幹細胞移植、あるいは遺伝子治療を行うと進行を抑制することができます。米国では新生児スクリーニングの実施が推奨されています。わが国でも新生児期のスクリーニングの候補疾患とされています。