ごあいさつ

 先天代謝異常症は、遺伝的な原因から精神神経症状が発症することが多く、急激に生命に危険が及ぶ状態になることもある疾患です。先天性代謝異常症の一部は、新生児スクリーニングによって発見されています。この検査システムは新生児マススクリーニングと呼ばれています。

 先天性代謝異常症の早期診断と早期治療の試みは、1950年ころから始まります。1960年代初めに開発されたフェニルケトン尿症の早期診断方法(ガスリー法)は、大変優れた方法で医学的にも公衆衛生学的にも大きな成功をおさめ、瞬く間に世界へ広がりました。我が国においても、1977年からガスリー法を利用して新生児マススクリーニングが開始されています。

 その後、2011年に新しくタンデムマス法が導入され、有機酸血症などが対象疾患に加わり、現在では先天性代謝異常症20疾患が新生児マススクリーニング事業の対象となっています。

 その一方で、早期治療が実現できれば、よりよい予後が達成できる疾患は、他にも数多くあります。その中でも特にライソゾーム病(およそ30種類くらいの疾患を含む)の一部では、この20年間の研究が実り、酵素補充療法や基質抑制療法、造血幹細胞移植などが効果を上げています。ライソゾーム病の患者の発生は、1万人に1人くらいという比較的高い頻度で生じるといわれています。治療薬が利用可能な疾患については、できるだけ早く治療を受けてもらい、できるだけ良い治療効果を上げたいというのが現在の医療が目指しているところです。

 私たち日本スクリーニング研究所は、ライソゾーム病をはじめとする希少疾患の早期診断を目指して、新規スクリーニング技術の開発、スクリーニング方法やそのほかの診断技術の普及、ライソゾーム病とスクリーニングに関する専門知識の普及などを目的としています。患者様や家族のみなさんが少しでもよりよい生活を送られることを願い、希少疾患の早期診断とスクリーニングの実現のために活動していきたいと思います。

一般社団法人 日本スクリーニング研究所 代表理事
くまもと江津湖療育医療センター総院長
熊本大学名誉教授 遠藤 文夫